国立近現代建築資料館「ル・コルビュジエ×日本」を訪れて

2018/01/23

 東京湯島にある国立近現代建築資料館において、「ル・コルビュジェ×日本―国立西洋美術館を建てた3人の弟子を中心に」という展覧会が開催されています。

 

 近代建築界の巨匠であるフランスの建築家ル・コルビュジェ(1887-1965)が日本の近現代の建築文化に及ぼした影響を、パリのアトリエで学んだ3人の弟子たち(前川國男、坂倉準三、吉阪隆正)の活動を中心に探るとともに、日本におけるル・コルビュジエ唯一の実作である、国立西洋美術館(昭和34年、1959年完成)※1の建設経緯と建築の魅力について、計3部の構成で紹介しています(第1部:ル・コルビュジェの発見・受容・展開、第2部:国立西洋美術館、第3部:現代日本建築にみるル・コルビュジェ)。

 

 

 第1部では、海外で戦災を免れて前川事務所に保存されていた図面や坂倉、吉阪らの当時の図面を見ることが出来ます。

 

 第2部の展示からは、国立西洋美術館の建設時の息吹がリアルに伝わってきます。国立西洋美術館に関する設計契約書、コルビュジェのモデュロール提唱後に、実際に教えを受けた吉阪(吉阪は、前川、坂倉より20年後の弟子)が日本でモデュロールを指揮したことを示す貴重な資料(モデュロール加算値早見表)、コルビュジェから日本に1956年に送られてきた27枚の基本計画書のうちの初期全体計画のスケッチなどです。特にスケッチでは、後に前川が設計する文化センターの存在がはっきりと見て取れるなど、今の上野駅前の原型が分かります。

 

 第3部では、丹下健三、安藤忠雄や伊東豊雄といった建築家や日本の建築界にコルビュジェが及ぼした多大な影響が時系列に解説されます。

 

 

 このように見所満載なのですが、全体を通じて、私が最も興味深かったのは、当時の図面を分類し、デジタルアーカイブ化に取り組んでいることです。なかなか、一般的に見ることのできない、設備図や構造図も含めたアーカイブ化がなされています。近代建築の保存において、建物自身の保存は勿論、こういった地道な取り組みが重要と感じました。

 

 また、BIMにより作成した国立西洋美術館の3次元映像を館内で放映していますが、国立西洋美術館のように使いながら保存を行っていかなければならない歴史的建造物※2、※3においては、建物の保全における様々な検討に活用できる可能性があるのではと思います。

 

 なお、この展覧会は11月8日まで会期中無休で開催中です。訪れる人ごとに新たな発見のあるお勧めの企画です。是非、訪れてみてください。

 

 

※1:国立西洋美術館(本館)は、戦後日仏間の国交回復並びに関係改善の象徴として絵画や彫刻等の「松方コレクション」が返還されるにあたり実現されたもの。

 

※2:昭和54年(1979年)に新館増築。平成5年からの企画展示館(21世紀ギャラリー)の地下への増築整備時に発生した阪神・淡路大震災(平成7年、1995年)を契機に、コルビュジェのオリジナルデザインを保存しながら本館の耐震化を図るため、日本初の免震レトロフィット工法を採用(1995年7月に設立した「国立西洋美術館本館等改修検討委員会」の委員は、岡田恒男委員長を筆頭に、高階秀爾委員、鈴木博之委員等の方々)、平成10年(1998年)に竣工。

 

※3:国立西洋美術館(本館)は、平成19年(2007年)に国の重要文化財(建造物)に指定される。平成27年(2015年)には、フランス政府が関係国を代表して、ユネスコ世界遺産センターへ推薦書「ル・コルビュジエの建築作品-近代建築運動への顕著な貢献-」を平成23年に続いて提出、世界遺産登録への期待が高まっている。