皆様は「公共建築」という雑誌をご存知ですか。公共建築協会員のための機関誌であり、創刊号は昭和33年4月の発行です。創刊から57年目、この10月には、通算で第210号が発行となります。
恵まれたことに、公共建築研究所では、創刊当時からの「公共建築」のバックナンバーが気軽に閲覧できる環境にあります。この環境を活かしながら余勢を駆ってバックナンバーを速読しているところですが、創刊号と第2号に触れて感じた事を、まずは綴ってみたいと思います。
創刊号と第2号では、「公共建築を解剖する」、「再び公共建築を語る」という、それぞれの座談会に引き込まれました。何よりも、当時からこれほど高い問題意識があったという、その事実に驚かされます。
冒頭から、多士済々の著名人※1の方々の口から、今に通じる骨太のテーマが語られます。
公共建築とは何か、、、、、
官公庁施設の一団地における課題、、、、、
官公庁におけるインハウス設計の功罪、、、、、
官公庁における技術者の役割、、、、、
官公庁施設の一団地という都市計画手法が内在する課題については、創刊号では、武基雄氏から「公共建築を一団地に集めるのは、能率とか不燃化といった機能論ではなく、出来たセンターに、市民としての喜び、誇りというか、何か楽しいものを感じられることこそが重要である」、第2号では、丹下健三氏から「コアを作るという考えの中で、市役所や税務署を造るだけではなく、映画館もレストランも必要だ。その他いろいろの公共性のあるものが有機的に結合し合って立派なコアを形成する」といった、その後の、「シビックコア地区整備制度」、「地域との連携による施設整備」につながる答えがすでに示されています。
また、公共建築※2とは何かについては、発注者の種類に拘泥することなく、その施設がどのような公共性を持つかという、当時では先進的な議論がなされています。今は、まさしく、第15回公共建築賞の募集が行われているのですが、募集要項にある「公共性の高い建築物」とう言葉に当時からの想いが帰結していると感じています。
官公庁におけるインハウス設計の功罪、官公庁における技術者の役割については、単純な問題ではありませんが、当時の時代背景を考慮しても、非常に参考となる答えが示されているというか、内包されています。郵政の薬師寺氏が、郵政建築というカテゴリーの専門性に加えて、自ら管理、収益性という特徴から、組織のお抱え技術者の必要性を論じていること、参加者から、官庁営繕に求められるのは、役所で設計を行うかどうかよりも、規模の基準化や材料の規格化といったことを、民間も意識して進めてほしいという意見は特に感じるところがありました。
これらの、今に通じるテーマについて、まさしく、一種の羅針盤が示されていたにも関わらず、これらの貴重なアーカイブにこれまで触れる機会がなかったことを勿体なく感じています。他のバックナンバーにもどんどんアクセスするとともに、もっと掘り下げも行っていきたいと思います。
注1:座談会の参加者は多士済々。司会は創刊号、第2号とも、昭和37年に大分県庁舎で日本建築学会賞作品賞を受賞された安田臣氏。
注2:法令で公共建築といった言葉というか用語が出てくるのは、意外にもつい最近。平成22年の「公共建築物等における木材の利用の促進等に関する法律」及びその政令における用語「公共建築物」の定義が唯一。